REPORT レポート

2026.06.15

【インフォアース株式会社】開発者インタビュー(後編)

管理者と現場の視点でITにできる工夫を。PATRAILが変える、登山道管理の未来。

紙や属人的な経験に頼らざるを得なかった登山道管理を、現場で使えるシステムへと変えていくPATRAIL(パトレイル)。
その開発プロセスには、どのような知恵や工夫が込められているのか。
さらに、その先にどのような登山道管理の未来を描いているのか。
後編では、PATRAILの特徴と今後の可能性についてお二人に伺いました。
(左から2番目)システム開発担当 井口 慧さん
(右から2番目)システム開発担当 西先 優さん

自治体ごとの違いに対応できる、柔軟な枠組みが設計の答えだった。

井口さん:
PATRAILは、登山道の管理をデジタルで一元化し、より高度かつ効率的な管理を支援するシステムです。
従来の登山道管理は紙が中心で、情報共有もメールや写真の送付にとどまるケースが多かったと伺っています。そのため、管理者が現場の状況を十分に把握できない、整備が場当たり的になってしまう、計画的に進められないといった課題がありました。
PATRAILは、現地調査から、報告を受けた管理者が整備の必要性や実施方法を判断し、実際に整備するまでの一連の流れを、デジタル上で完結させるシステムです。登山道管理のプロセスをデジタル化することで、より効率的な管理を実現していく。それが基本的な考え方です。

西先さん:
PATRAILの開発では、まず小田急様の要望を受け止めるところから始まりました。単に「どのような機能がほしいか」だけではなく、なぜその機能が必要なのか、登山道管理のどの課題を解決したいのか。その背景まで、できるだけ深く伺いました。
そのうえで、いきなりシステムを作るのではなく、伺った内容を言葉に整理してお返ししたり、画面のイメージを作ったりしながら、少しずつ認識を合わせていきました。たとえば、現場で記録した情報を管理者がどのように確認するのか。登山道の状態をどのような画面で見せるのか。そうした具体的なイメージを示しながら、PATRAILの形が少しずつ定まっていきました。

井口さん:
特に重要だったのは、業務の流れをどう捉えるかという部分です。どのようなシステムにするか、どのような機能を持たせるかを考えるうえで、登山道管理の実態を正しく理解することが欠かせませんでした。
登山道管理には、全国で共通する定型的なやり方が存在しておらず、管理者である自治体様によって、方法も内容もさまざまです。そこで、自治体ごとの違いを前提にしながら、どこに共通する課題があるのか、どの部分をシステムで支援できるのかを探っていきました。皆様が感じている課題を、ITのチカラでどう効率化できるか。その検討には、特に力を入れてきました。

西先さん:
登山道管理者が現場の報告を受け、修繕の計画を立て、実行していく。その一連の流れを確認しながら、「一番のボトルネックは点検ですよね」というところから、業務を分解していきましたね。
私たちは登山道管理という仕事について、ほとんど何も知らない状態でした。ですから、業務フローも仕事の進め方も、基礎的な部分から学んでいきました。
一方で、システムとして考えると、他分野で培ってきた知見を活かせる部分もありました。たとえば地図機能です。PATRAILでは地図が登山道管理の核となる機能になりますが、単に地図を表示できればよいわけではありません。重要なのは、登山道の位置、構造物、問題箇所、点検記録といった情報を、管理者が判断しやすい形で地図上に整理することです。登山道管理の業務に合った地図機能とはどうあるべきか。その部分を、小田急様との議論のなかで固めていきました。

一画面で登山道の現状をつかめる、管理者ファーストのUI設計。

井口さん:
私がアピールしたい機能の一つが、グループ管理機能です。
登山道の管理は、関わる団体や関係者が非常に多いことが大きな特徴です。ある一つの登山道の管理には、登山道を管理する自治体、パトロールを担当する団体、補修する団体など、さまざまな団体が関わっています。工事になれば、また別の方々が動くことになります。そのため、関係者ごとに「触れてよい情報」と「触れてはいけない情報」が存在します。誰がどの情報を見られるのか。誰がどのデータを変更できるのか。どの団体に、どの機能を使ってもらうのか。こうした権限をグループ単位で管理し、設定できるようにしています。
グループ管理機能があれば、大元の管理者が「この情報はこの団体には渡せる」「この情報と機能は限定的に提供しよう」など細かく設定できます。紙ではなくシステムだからこそ、情報共有を一元的にできる。そこがアピールしたいポイントです。

西先さん:
私がアピールしたい機能は、登山道台帳画面ですね。
管理者が最初に開く画面で、地図がメインになっています。管理しているすべての登山道がリスト表示され、管理している構造物や問題のある箇所がひと目でわかります。
「現場で何が起きているのかを把握できていない」という課題は、開発の初期段階から共有いただいていました。同時に、自治体様へのヒアリングで分かったのは、登山道管理がメイン業務ではなく、ほかの業務と並行して対応している方が多いということ。この業務だけに何時間もかけているわけにはいきません。そこでシステムで解決するなら、山に行かなくても登山道の状態が一目瞭然で把握できる画面を作りたいと考えていました。
画面では、登山道のリスト、台帳の情報、管理者が誰でいつから管理しているか、構造物の情報、写真まで確認できるようになっています。問題のある場所について現場から連絡があれば、場所を検索して「この場所のこの橋」と特定できる。工事の履歴まで確認でき、今後どうするかを判断できます。

井口さん:
さらに、もう一つアピールしたいのは、修繕をするか否かの判断結果を登録できる機能です。
パトロール現場の担当者から報告が上がってきた内容を、管理者が確認し、「ここは経過観察でよい」「ここは保守が必要」といった判断結果を登録できる機能を用意しています。
インフラ管理システムには、当然、インフラ自体の基本情報、点検時の所見、報告、写真、動画といったデータが蓄積されていきます。しかし、より重要だと考えているのは、管理者や技術者の判断です。つまり、人間の暗黙知をシステムに蓄積できるようになる。そこに大きな意味があると考えています。

登山道の制約に寄り添い、現場のための操作を突き詰める。

西先さん:
現場の方向けには、できるだけ操作をシンプルにする。その点を徹底しました。
山は足場が悪く、歩くだけでも、点検そのものにも時間がかかります。そこにスマートフォン操作の時間まで重なれば、日が暮れてしまう。複雑で時間のかかる画面操作は難しいだろうということは、開発当初から想像していました。
具体的には、写真の登録をメインに据えています。問題のある場所を撮影すれば、おおよその状況はわかります。あとは「程度」のような現場の状況の悪さをタップで選ぶ。それでも足りない情報があれば、文字を入力する。文字入力はどうしても時間がかかりますので、できるだけ避け、タップと写真撮影で記録が完了する形を目指しました。
1つの登山道につき点検箇所が100箇所ほどあるため、すべてを逐一点検し、登録するのは現実的ではないというご意見を、最初に板谷様からいただいていました。ですから、問題がある箇所を優先して登録していく仕組みにしています。
さらに、スマートフォンはGPSで現在位置がわかりますので、台帳として登録されている登山道のデータと組み合わせ、現在地の周辺で点検すべき箇所を最初にリストアップすることもできるようにしました。アプリを開けば、近くで確認すべきリストが出てくる。一つずつ確認し、問題があれば写真を撮って記録を登録する。そうした形で、パトロールのシステム化を図っています。

井口さん:
現場の方の負担を少しでも減らしたい考えから、なるべく作業手順を減らすことには気を配りました。ただし、作業を簡単にするなかでも、管理者側で必要になる情報まで失ってはいけません。簡単になるからといって、必要な情報を削ってしまわないようにする。必要十分な情報を残すことには、特に注意しました。

より高度な登山道管理を目指して。一歩一歩、PATRAILを進化させていく。

井口さん:
当面、PATRAILの機能は、現状ある構造物や問題箇所をしっかり載せ、情報として蓄積していくことがメインです。
ただ、登山道の問題箇所には、土砂崩れや崖崩れ、土砂流出といったものも多くあります。こうした事象は、地形や水の流れから、ある程度予測できる部分もあるはずです。
現在は、事後の対処が中心ですが、登山道の情報をきちんと管理し、データを蓄積していけば、起きた後に対策するのではなく、起きる前に予測して対策する方向に変えていけるはずです。
問題が起きてから対策をすると、事前なら不要だったコストがかかってしまいますし、撤去も大変です。起きる前であれば、それほど大変ではないことも往々にしてあります。だからこそ、情報を蓄積し、原因を分析し、事前に対策できるようにすることが大切です。そのためにも、今、システムを作っているのだと考えています。

西先さん:
業務がデジタルで一元化され、データもデジタルで管理されることで、これまで各自治体や担当者によってやり方が違っていた部分や、勘に頼っていた部分が、データをベースにした計画的な維持管理に変わっていくと考えています。
過去の管理記録、地形の情報、点検記録が揃っていれば、登山道の劣化の経過もわかります。蓄積されたデータをもとに、将来の予測もできるようになっていくはずです。
そうなれば、何か起きてから対応するのではなく起きる前に計画を立てる、より高度な登山道管理が可能になり、登山道という観光資源を守り、活かしていくことにもつながっていくと考えています。

井口さん:
今、AIが急速に普及しています。少し先の将来には、AIがこうしたデータをもとに、ある程度の判断もできるようになっていくと考えています。
そうなると、人間の役割も変わってきます。AIの提案に対して、確認と判断を行う。AIエージェントが、人間の判断と指示に基づいてタスクに分解し、実行まで支援してくれる。そうした時代になっていくのではないでしょうか。PATRAILには、そのためのデータ基盤になる仕組みが、すでに整いつつあります。道のりは決して短くありませんが、一歩一歩、PATRAILの進化とともに登山道管理の未来に貢献できればと思います。